触らぬ神に祟りなし

 道場の後輩に、普通に幽霊が見えるという男がいる。普段はそんな話はまったくせず、そぶりにさえ見せないが、「どうせ本気にしてはもらえないし、変な人間だと思われるのも嫌だから」だという。

 彼によれば、ごく自然に道路わきに立っているのを見かけることもあれば、彼の下宿にも人畜無害なものが一体いるという。そうした幽霊を見ても「ああ、そこにいるな」と思うだけで、カラスや野良猫を見かけるほどの興味もないらしい。

 家の中にいるそれに関しては、いることさえ忘れていることがほとんどだという。「それよりも、生きている人間の方がよっぽど煩わしいですよ」ということだが、それはそうだろうなと思う。

 人間関係にお金、仕事、子育てに介護、病気や事故の心配もある。幽霊なんかに構っていられないのが生きた人間の現実だ。下手に興味をもって憑りつかれても困る。触らぬ神に祟りなし。これに限る。

 霊視能力への興味がないことはないが、やたらと妙なものが見えるようになった場合の煩わしさを思うと、踏み込まない方が身のためだろう。今はそう思って自粛している。

 スピリチュアルなことや心霊現象に関しては、否定するのではなく、限りなく懐疑的な態度をとって近づくことが正しいことなのだ。そういう現象に入り込む以前に、審神者的な知識や能力を育むことが先ではないだろうか。霊感商法的な詐欺に引っかからないためにも。