彦根城と佐和山

 三十代のころは帰省の費用を安く上げるために、青春18キップを利用して、片道1泊2日、1日当たり12時間とか13時間とかを普通列車で乗り継いで東京と九州を往復していたことがある。

 途中の1泊は5000円くらいの安いホテルに泊まったり、ひどい時は駅舎の片隅に、バックを枕に寝転がって始発の電車を待っていたりした。

 そうすると通常は往復で総額5万円近くかかる旅費が、途中の食費を含んでもだいたい半額ぐらいで済む。問題は、実家での滞在時間が短くなることと旅の疲労が残ることだった。

 途中の1泊は、東京から九州へ帰省するときは兵庫県の明石あたり、逆に九州から東京へ上京するときは、滋賀県米原あたりが多かった。到着するのはだいたい深夜になる。

 米原に1泊して、翌日ついでに彦根城を見学して行ったことがある。琵琶湖と一体となったような美しい城だ。これが井伊の殿様のお城かと思いながら、天守閣の急すぎる階段が印象的だった。

 琵琶湖から山側の方に目を移すと、佐和山というこんもりした小高い山が目の前にあった。石田三成の居城の佐和山城があった場所だ。本来なら、彦根城よりもはるかに雄大な城がそこに聳え立っていたのだろう。

いつか佐和山の城跡をめぐってみたいと思っていながら、未だに実現していない。石田三成関ヶ原の戦いで敗れたために、残った一族郎党が悲惨な滅亡をした場所だ。

 落城の際に、立てこもっていた二千人近い婦女子らが投身自殺した場所もあるらしい。三成は当然、勝つつもりでいたのだろうが、巻き添えになった婦女子らのことを思うと訪れるのも気が重い。