土手に立つ小屋

 川沿いの土手の上に一軒、小さな民家とも作業小屋とも見分けがつかないような建物が立っているのを散歩中に見つけた。土手下には、低い民家の建物が立ち並んでいるような一帯だった。その家からは、川の流れる風景も、土手下のこちら側の街並みもよく見えることだろう。

 誰か住んでいるにしても家族で住んでいることはなさそうだ。ひとり暮らしの中年男が、気楽に、それこそ日雇い労働のような仕事でもして、気が向いたときに働き、そうでない時はごろごろと寝そべって生活しているのだろうか。

 勝手な想像だが、そういう生活に憧れる自分がいる。仕事の連絡用と動画を眺めるためにスマホ一つを持って、世間のニュースもその辺の定食屋でテレビのニュースを眺めたり、新聞を読んだりするくらいで十分だ。

 洗濯は、食事をしている間に、近くのコインランドリーに放り込んでおく。風呂は簡単なシャワーがついていればいい。あとは週に1回ぐらいは銭湯通いをしてもいい。少し歩けば、交通機関は発達しているから、車を持つ必要もない。

 大都会の下町だからこそ、そうした生活も人目を気にせずにできそうだ。変わり者の男が一人で住んでいるくらいの噂は立つだろうが、仕事さえしていれば、そう世間に引け目を感じる必要もない。人と比べて贅沢な生活をしたいというような気はさらさらないのだから。

 想像はしてみるものの、今の自分にはとても叶えられそうもない。すべてを捨ててそういう生活をする覚悟があれば別だが、想像よりもやはり現実の生活の方が優先する。子供の学費に、実家の老親の介護の問題も迫ってきた。