リアルな夢

 明晰夢というのだろうか。これは夢だという意識を保ちながら、石造りの街中を歩いていた。中世のヨーロッパのような印象でありながら、全体的に建物の高さが高く、その高い位置を歩道が縦横に走っている。

 不思議な世界に来たものだと感じながら下の方に降りていくと、建物に囲まれた広場があり、そこには大きな泉水があった。ここは夢の世界に違いないと思いながらも、夢だという意識が過去の記憶のように薄れていきそうになる。

 白い階段も、広場の石畳も、泉水の水や噴水も、ありありとした現実感があって、ためしに金属製の階段の手すりを叩いてみると、重く冷たい質感が伝わってきた。

 周囲にいる人の気配も感じられて、普通に会話しているような声も聞こえてくる。だんだんとこちらの世界の方が現実に思えてきて、どこかで眠っているはずの自分の方が嘘のように思えてきた。

 ただ何となく、このまま引き込まれてしまってはいけないような気がして、早くこの世界から抜け出さなければ大変なことになりそうな、焦りに似た気持ちが生じてきた。

 その時、「あいつだ、捕まえろ!」という声がして、階段の上の方から役人たちが駆け下りてくるのが見えて、どうやら追われているのは自分らしいと思って慌てて逃げだしたが、広場のどこにも出口が見当たらないのに気づいた。

 いつの間にかそこにも大勢の人間がいて自分をめがけて迫ってくる。ほかに逃げ場がないから仕方なく泉水の中に飛び込むと、暗い水の中に引きずり込まれていった。「飛び込んだぞ!」「入水自殺したぞ!」といった声が水の中にも伝わってきた。そこで目が覚めたが、しばらくは興奮状態が収まらなかった。