猫の喧嘩と水

 王子駅の北口を出て、左側に歩いていくと石畳があり、整備された親水公園がある。ちょっとした渓谷のようになっていて、アーチ型の橋があり、右側の斜面の石段をのぼっていくと、上は王子神社になっている。

 親水公園沿いには居酒屋があって、若いころはよく利用していた。久しぶりにそこを歩いていると、歩道わきの斜面のところで2匹の猫が喧嘩していたことを思い出した。通り過ぎる人様のことなど目に入らぬかのように、大声でわめき合ってはもつれあう。

 見た感じ、どちらも5~6キロは重さのありそうな立派なオス猫どうしだった。猫の喧嘩はオスどうし、またはメスどうしで、オスとメスがこんな風に喧嘩をすることはないらしい。体格が違いすぎるのでまともな喧嘩にならないのだ。

 それはオス猫どうしでも一緒だろう。喧嘩になるのは実力が近い者どうしであって、相手が明らかに強そうな場合は、弱い方の猫は敏感にそれを察知して、その場を逃げだすか、息をひそめるようにじっとしているかのどちらかだ。

 このときの喧嘩も、両者の実力が伯仲しているようで、ともにプライドがあって、引くに引かれぬ状況にあるらしかった。これは面白いなと思いつつも、こんな風雅な場所での喧嘩は通行人の迷惑でもあり、少々わめき声がうるさすぎる気がした。

 そう思っていると、バケツを持ったおばさんがやってきて、2匹の上に思い切り水をぶちまけていった。猫たちはぎゃっと驚いて、てんでばらばらに一目散に逃げ去っていく。やはり猫の喧嘩を止めるには水が一番いいようだ。こういう光景は昔から変わらないのだろうなと思った。

 うるさく音を立てているものに水をぶっかけたくなるのは、相手が猫ばかりとは限らない。去年か一昨年の夏ぐらいに、マンションの裏庭の除草をやっていると、同僚の一人が上の階からいきなりバケツで水を浴びせられたことがある。きっと草刈り機のエンジンの音がうるさかったのだろう。

 我々は作業に入るときは、いついつやりますと前もって通知を出して、共用部に張り紙を出してもらって、少々音が出ますがご容赦くださいと断りを入れているのだが、それでもたまにこういうことがある。

 もっともその時は、かの同僚が無駄に草刈り機のエンジンをふかせすぎていて、もう少し静かに作業できないのかよと思っていたくらいだから、ずぶぬれになった姿を見ても、あいつは自業自得だと親方もほかの連中もみな笑って済ませていた。