カラスの灯篭

 上野公園から不忍池のほうに斜めに降りていく細い石段がある。目立たないが緑に囲まれて、なかなか雰囲気のある階段だ。朝そこを下っていくと、斜面側の手すりの石のポールの一つ一つにカラスがとまっていた。

 ふだんあまり人が通る時間帯でもないのだろう。警戒しつつも、何しに来たとばかりに上ってくる人間を見つめている。そう長い階段ではないが、カラスの黒い灯篭が下のほうまで連なっているのは、黄泉の世界にでも向かっているような不気味な光景だった。

 こちらはただ散歩の途中で通りがかっただけなのだが、少しでもひるんだら一斉にとびかかってきそうな気配だった。互いに何か声をかけあっている様子だが、何を言っているのかわからない。さすがに近寄るとぱっと飛び去って、近くの木の枝から無念そうにこっちを見ている。

 考えてみれば、幕末の上野戦争のときは、この上野の山に1,000人近い彰義隊が立てこもって、大村益次郎のひきいる新政府軍のアームストロング砲でさんざんに打ち破られたのだった。

 まさにこの階段のある斜面は、不忍池をはさんだ対岸からの格好の標的となった場所だ。上野戦争での彰義隊の死者は200人余りだったという。彰義隊はわずか1日で壊滅したが、江戸の旧幕臣たちが最後の意地を見せた戦いだった。