スズメバチと体質

 植木職人の天敵にスズメバチがいる。これから夏になってくると、スズメバチをはじめとする毒虫による被害が深刻になる。刺されると、患部から周辺部一帯がはれ上がって、一週間ほどは痛痒さで夜も寝られなくなる。

 しかし、この仕事を何十年もやっている親方の様子を見ると、ある年の夏など一日で右腕を同時に3か所もスズメバチに刺されたことがあった。さすがの親方もあまりの激痛に右腕を肩からだらりとしたまま、その日はもう仕事にならない様子だった。

 しかし次の日には平然と、もう仕事に戻っているのだ。聞けば、痛いのはやはり痛いらしい。これは痛みに耐性があるのか、それとも精神力なのだろうか。そもそもアナフィラキシーショックとやらで、普通の人間だったら、とっくに死んでいてもおかしくないような刺され方ではなかったのか。

 そういえば、うちの植木屋を含めて、どこそこの植木職人がスズメバチに刺されたという話は、毎年のように聞くが、その職人が死んだという話は聞かない。そしてスズメバチに刺されるという職人も大体決まっている。

 これは体質の問題なのか、慣れなのか。そんな職人たちは、「アナフィラキシーとやらでいちいち死んでちゃ、植木屋なんてやってられないよ」と平然と言う。しかし、刺されるのはやはり嫌なのか、現場でスズメバチが飛ぶ姿を目にしたとたん、大騒ぎして真っ先に逃げ出すのもこの職人たちではある。