鎌倉の寿福寺

 植木の仕事で鎌倉の個人邸にいくと、近くにいくつかの有名な観光地があって、線路を渡ったところに寿福寺の山門がある。昼休みには、山門の前に置かれている石の上に座って弁当を食べたりする。

 そんなことを5年ばかりやっていたが、寿福寺そのものには大して興味は感じなかった。鎌倉時代から続く古くて立派なお寺だと感心して眺めていただけだ。ときどき人力車に乗ってやってくる観光客もそんなものだろう。

 しかしたまたま、念流という剣術の古い流派の開祖が、若いころにこの寿福寺で禅僧から兵法の秘伝を受けて、それをきっかけに自分の剣術を完成させたことを知って、改めてこの寿福寺への興味がわいてきた。

 禅僧がいたというからには、いうまでもなくこのお寺は禅寺だ。開山したのは誰か。なんと栄西さんだった。鎌倉時代の傑出した禅僧で臨済宗の開祖。源頼朝の妻の北条政子がわざわざ栄西を呼び寄せて建立したのだ。

 そんなお寺を昼食の休憩場所として使い、何年もただぼんやりと眺めて過ごしてきたこの能天気さ。メインは仕事だからそう一々、近くの神社仏閣に感心してはいられないのだが、知られざる歴史の一幕を身近に感じられただけでも良かった。