めんどうな管理人

 植木の仕事で、とある高級住宅地のマンションに行った。そこは面倒な管理人がいて、スケジュールが入るだけでも憂鬱な気分になる。現場につくとやはりそいつがいた。

 年のころは60を超えたくらいか。やくざ映画に出てきそうな濃い顔をしている。特徴的なのは目つきの嫌らしさだ。人の欠点やあらを探し出しては、ねちねちと追及してきそうな陰険なタイプによくある目つきだ。

 よほど暇なのか、モップをびちゃびちゃと水道の下で何十分も洗いながら、からみつくようにこっちを見ている。こいつを気にしていても仕方がないから、とにかく仕事を進める。

 親方とバカ息子はさっさとどこかへ行ってしまった。この親子はとにかく逃げるのだけはうまい。見て見ぬふりに気づかぬふり。父親はさすがに、いざとなったら対応するが、息子の方はどうにもならない。

 仕事さえ無事に済ませてしまえば何ともないのだが、生憎なことに、上から落とした枝が、マンションの理事長が共用部に置いていた簡易のライトに当たって、ライトの位置が少しずれてしまった。しかも、管理人の目から見えないところに逃げて仕事をしていたバカ息子が落とした枝だ。

 仕方がないから私がライトの位置を直す。大して太い枝でもないからライトに傷はない。そもそも共用部に自分の庭を照らすライトを置いている方が問題なのだが、とにかくこの一連のことが管理人には気に入らなかったらしい。

 「ライトの位置が前と違っている」とねちねちと絡みだした。「いや違ってはいない、斜めに倒れたのを真っすぐに戻しただけだ」と言っても、「もともとの角度はそうじゃなかった」と言い張る。そして、「これじゃ理事長に何と申し訳していいか分からない。俺はこれで管理人を首になるかもしれない。もし元の位置と少しでも違っていたら、後でどう責任を取ってくれるのか」としつこく絡んできた。

 「わかった。だったら後でと言わずに今すぐ理事長に謝罪に行くから、一緒に来てくれ」と言う少しひるんだようだが、「私がどんなに怒られても構わないから今すぐ行く」と言い張るとしぶしぶながらついてきた。

 部屋の呼び鈴を鳴らすと、奥さんが出てきて、「こういう次第で申し訳ございませんでした」と謝ると、理事長が顔を出してきて、謝罪している私を通り越して管理人に向かうと、「こんなくだらないことで、一々いちいち顔を出すな!」と怒鳴ってさっさと引っ込んでしまった。

 奥さんに挨拶して、そのまま管理人には目もくれずに仕事に戻ったが、この間、問題の発端であるバカ息子は、自分がそもそもの原因だとは気づいてもおらす、私が管理人と個人的にトラブルを起こしたのだと思って、木の上で見て見ぬふりをしていたらしい。