手に職への道

 パソコンやスマホ一つで仕事ができるような時代となって、昔ながらの手に職といった感じの仕事はどこまで生き延びていくことができるのだろうかと思うことがある。

 植木屋のような職人仕事も、以前とはだいぶ仕事の形態が変わってきたようだ。昔ながらのこつこつと、鋏で一本一本を丁寧に剪定していくような仕事はほとんどない。そういう本格的な植木屋は、集合住宅専門の業者とはそもそも客層が違うのだ。

 そんな本格的なところにサラリーマンをリタイヤした人間がのこのこやってきても通用するはずがない。最低でも10年は修行が必要だろう。そう考えると、同じ手に職とはいえレベルに格段の差があることがわかる。

 しかし、超一流の植木屋でなくとも、それなりの需要があれば職業として成り立つ。誰もが高級なフランス料理や日本料理を食べたいわけではない。その辺の吉野家日高屋で十分だという人も多いのだ。

 とにかく枝葉が伸びすぎて見た目がうっとおしいから、きれいさっぱり切り揃えてくれと、それもなるべく安く早く仕上げてほしいと、実際そういうお客さんがほとんどだ。ならば俺にもできるんじゃないか、と安易に考えて、一般の造園業に応募しても、そこでもやはり乗り越えなければならない壁がある。

 職人の人間関係、言葉遣い、仕事のスタイルに慣れることができるかどうか。それ以前に、早起き・無欠勤ができるか、一日を外仕事で過ごせる体力があるか、それを半年・一年と続けられるか、夏の酷暑や冬の寒さ冷たさに耐えられるか、これらのことだけでも結構ハードルが高いのではないだろうか。

 仕事は木を剪定するばかりでなく、枝ごみを片づけたり、除草したり、トラックから荷物の積み下ろしをしたり、現場が終わっても道具の手入れや事務仕事も当然にある。これらのすべてが手に職の仕事のうちと言っていい。

 樹木の剪定は次の段階として、現場の掃除について考えてみる。たかが掃除と思うかもしれないが、意外にこれがきちんとできない人が多い。しかも手際や仕上がりにセンスの差、個人差が出てくる。できない人は1年、2年とかけてもきちんとできない。ダメ出しが出て、クレームが入ることになる。

 逆に掃除ができる人は、ほかの仕事をやらせてもきちんと出来るようになってくるのだ。当然、職場でも重宝されることになる。超一流の植木屋でなくても、手に職への入り口は案外こういうところにあるのだろう。