鎌倉

 鎌倉の現場だった。東京から鎌倉まで往復して、その間に肉体労働をするのはなかなかしんどい。せめて現場は23区内に限ってほしいものだが、親方の知り合いらしいから仕方がない。

 司法書士の事務所から流れてきた54歳の新人は、小学校の修学旅行以来の鎌倉だと喜んでいた。残念ながら鶴岡八幡宮も鎌倉の大仏も銭洗弁天も立ち寄っている暇はない。

 八幡宮前を通りすがりに中をのぞいて、若宮大路を横切って静かな住宅地の中へと入っていく。現場は横須賀線の線路わきから少し中へと入ったところだ。道路が入り組んでいて狭いから、2トントラックを運ぶのに苦労する。

 行きはまだいいが、帰りは街中の路地を通るときに、観光客がぞろぞろと歩いている中を突っ切らなければならないから、気を遣うし、なかなか進めなくて往生する。やはり鎌倉は仕事で来る場所ではなくて、観光で来るべき場所だ。われわれの方が間違っていたのだ。

 市街地を鶴岡八幡宮の脇から右手の方に抜けて、山越えをして、高速道路に乗るとやっとほっとする。歴史的に興味を持っている場所はいくらでもあるが、鎌倉まで仕事で来た日には、むしろさっさと帰りたい。湾岸を通って帰るときの海の光景がきれいだった。