ある女性の決断と運命

 彼女がまだ若くて自信にあふれていたころ、結婚生活よりも、自由で独立した生活にあこがれていた。しかし、一人ぼっちで老いぼれる日を思って、心の底ではいつも不安を抱えていた。

 気がつけばあれから25年が過ぎていた。彼女はもはや若くもなく、自慢だった容貌も衰え、異性からちやほやされることもなくなった。職場での居心地も悪くなり、最近は体調さえ思わしくない。

 このまま孤独でさびしい老後を迎えることになるのかと思うといたたまれなくなる。若いころの不安が実現してしまった。もう私の人生は取り返しがつかないのだと。

 息苦しさに目を覚ますと、胸の上には丸太のように太い腕がのっていた。まぎれもない、彼女の夫のものだった。さっきまでの苦しさも忘れて、思わずその腕に縋りつく。彼女は確かに結婚したのだ。

 彼女につきまとって離れなかった後輩の男が、今自分の傍らにいる。見た目も能力の点でも、それほど気に入った男ではなかったが、その性格には愛すべきところがあった。そして何よりも熱意で彼女を陥落させたのだ。

 目立つ才能もない代わりに、この男には何が何でも生き抜こうとする気構えがあった。この男でなくても、ほかに彼女にふさわしい相手は現れたであろうか。そういう迷いがないわけではなかったが、彼女はついにこの後輩の男を受け入れることにしたのだった。

 若いころの彼女の決断は正しかったのだろうか。少なくとも今彼女は一人ではない。最近になって、夫が何よりも愛しているのはお金ではないかという気もするが、それならばなおさら老後の生活は安泰だ。

 周囲を見渡せば、人生の毀誉褒貶はさまざまだった。若いころひそかに憧れた男性社員もいたが、四十代を境に急にしょぼくれていった。華やかに独身を謳歌していたOLたちも、彼女が怯えていた不安を代わって実現してくれているかのようだ。

 一歩違えば、今現在の彼女もあのOLたちの側にいたのかもしれない。若いころの彼女は、何も確信があって決断したわけではない。たまたま運命のように地味な後輩の男が身近にいて、その熱心な求愛を拒絶しなかったというに過ぎなかった。運命とはそういうものらしい。