二代は続かないか

 社長の息子は悪い人間ではない。例えば人に意地悪をしたり、強圧的であったりすることはない。ただ怠け者で、気分が散漫で、仕事もいい加減に済まそうとする。これまでは周りの職人たちがその分を補ってきたが、だんだんそういうわけにもいかなくなってきた。

 社長も70代の半ばとなり、本心では今年50歳となった息子に後を譲りたい。しかしそうしたとたんに会社が潰れるだろうことを恐れている。実際そうなるだろうと思う。

 息子もまんざら馬鹿ではないから、そのことに気付いている。そして社長が元気なうちは、その懐にしがみついておこうという腹のようだ。その間、仕事は職人たちがしてくれるから、自分はなるべくきつい仕事は避けて、責任も負わない立場で、できればあと10年はこうしていたい。そしたら年金生活が見えてくると。

 社長は確かに頑健だから、あと5年くらいは今の仕事に十分耐えれそうだ。だが80を超えればさすがに難しくなるのではないだろうか。万が一中途で社長が倒れたら、無気力なボンボンを養ってやるほど職人の世界は甘くはない。

 人生の再起をかけた50代の新人たちは、あっという間に二代目の本性を見抜いたようで、「あれでは駄目だ」と語らっているようだ。陰ではジュニアと呼んでいるらしい。新人のうちの1人はなかなかの野心家に見える。

 真面目な彼らが仕事を覚え、仕事に自信をもってきたら、社長の引退を待たずにボンボンの居場所はなくなるのではないだろうか。やはり仕事を真剣に覚えようという意気込みが違う。やる気がある人間が仕事を継いでいくようになるのは当然だと思う。