猫のくせに(2)

 それから東京ではこんな猫がいた。白っぽいグレー色の見事な毛並みをした大きなオス猫が、通勤で駅に向かう途中の塀の上に香箱座りに、見るからにずっしりと、毎朝のように居座っていた。

 塀の幅が10センチくらいしかないものだから、巨大な腹の肉が両側にはみ出して垂れ下がっている。そればかりか、いつも向こう向きに座っているものだから、タマタマが揃って丸見えだった。

 この大きなオス猫がなぜ毎朝、こんな不安定な場所にわざわざ居座っているのかというと、近くの学校に通う女子学生に撫でてもらうためだ。

 実際、この猫の近くにはいつも女子学生の集団がたむろして、手を伸ばして喉をさすったり、垂れ下がったお腹をなでたりしていた。猫は猫でいかにも満足そうな顔をしてふさふさのしっぽを振っている。

 そんなある日、女子学生の波が途絶えた合間に、これはチャンスとばかりに、さりげなく後ろから近づいて猫を触ってみたことがある。猫は向こうを向いたまま警戒もしていない。次の女子学生が来たのだとでも思っていたのだろう。

 触ってみれば、重量感たっぷりのお腹に背中に、よく手入れされた毛並みだった。すると猫が何かを感じたのか、不意に顔をこちらに向けて、露骨に嫌そうな表情をしたのだ。そしてぷいと塀の向こう側に飛び降りてしまった。

 うすうす感じてはいたのだが、やはり無理だった。単に人間の男が嫌いだったのか、それとも、その時触っている人間自体が気に食わなかったのか。見た目はきれいな猫だったが、性格はあまり良い猫ではなかったのだと思いたい。