タヌキの出現

 田舎の実家の周辺にタヌキが出没し、近隣の兼業農家の農作物が食い荒らされているらしい。そういえば昨年末に帰省した時に、隣のじいさんがタヌキの子どもを捕まえたという話は耳にした。

 近くに里山もなく、ひたすら平坦な田園地帯の集落の中に実家はあるが、自分が子どもの時以来、タヌキが棲んでいるというような話は聞いたことがない。

 近所の子どもたちと一緒に近所の田畑や、林の中を走り回っていいたころでさえ、誰一人タヌキを見たという者もなく、通っている小学校のクラスでタヌキが話題になることもなかった。

 田舎とはいえ、そのくらいタヌキという生き物とは無縁だったのに、なぜここ数年の間に、急にタヌキが繁殖しだしたのか不思議でならなかった。

 だがよくよく話を聞いてみれば、なるほどと頷けることもある。最初の個体がどうやって来たのかは分からないが、いったん集落内に棲みつけば、繁殖できる条件は十分すぎるほど整っているのである。

 思いあたる第一の原因は、集落内の人口の高齢化と減少であり、第二の原因は、十分すぎるほど広い庭付き畑付き一戸建ての空き家の増加である。人のいなくなった家にタヌキが代わりに棲みついて数を増やし、今やわが物顔で、食料を求めて夜の集落を徘徊しだしたのだ。

 これは困ったことになったと思った。今は都会の植木屋稼業で、とりあえずは子どもが大学を出るまでは頑張るつもりでいるが、いずれは田舎に帰ることも想定している。だが田舎に帰ればそう簡単に仕事はない。

 幸いなことに、実家には自給自足できるくらいの農地はある。たとえ現金収入がわずかでも何とか食べていけるのが農家の強みだ。うちは農家と呼べるほどでもないが、その流儀で生活はできるだろうと想定している。

 だがその農作物がタヌキに食い荒らされるとなると、これは結構なダメージだなと気が重い。タヌキを捕まえてタヌキ汁にするわけにもいかないし。実際あれは臭いがきつくてとても食べられるものではないらしい。