チャドクガの置き土産

 仕事が休みなのに首筋に異変が生じ始める。ひりひりとした痛みにかゆみが伴う嫌な感じだ。これはもしかして、しかし、まさかと思う。今は冬季だと思って完全に油断していたのがいけなかった。

 思い出せは異変のきざしは昨日からあった。無意識に何度も首筋に手を当てていたが、木の枝でひっかいたかな、くらいの気づきでしかなかった。今は明らかに患部が赤く腫れあがって、蕁麻疹じみた気配さえある。

 そういえばその前日に料亭の山で雑木をかき分けていた時に、枝葉が首筋をかすったような記憶がある。確かにあれはサザンカかツバキの系統だった。

 もはや間違いはなかった。毛虫の残骸にやられたのだ。しかもチャドクガという植木屋が最大限に忌み嫌う毛虫の置き土産に。植木屋が仕事中に遭遇する毛虫の中で、最悪の毒性を持つのがこのチャドクガだ。

 見た目もおぞましくて、サザンカやツバキの枝葉に何十匹、何百匹とからまりあいながら群がっているのを見ると、もうその光景だけで吐きそうになる。そいつに直にさわろうものなら、体中にまだらの蕁麻疹が出て、1週間はもだえ苦しむことになるのだ。

 直接さわったりしなくても、近くを通って、風に飛んできたチャドクガの毛が体についただけでももうアウトだ。今回はどうやら去年のチャドクガの残骸が枯れた枝葉の先に残っていて、それに首筋をかすってしまったことが原因らしい。よく見れば避けられたはずだが、やはり油断だった。

 こうしている間も、痛痒い患部につい手がいってしまう。どうやら腫れは首の部分だけで済んだようだ。コンマ何ミリグラムかの目に見えないような毒だと思うのだが、いったいどういう仕組みでこんなひどい反応になるのか、うっとおしくて調べてみる気にもなれない。