国土を守るクロオオアリ

 冬はつらい現場仕事だが、毒虫にやられる心配がないことだけは有難い。最悪なのは、チャドクガスズメバチ、そしてブヨだ。

 こいつらにやられると、患部から周辺が大きく腫れあがり、強烈な痛みと痒みで一週間はもだえ苦しむことになる。この中で一番最悪なのは、実はブヨなのだが、最悪すぎて今は話す気にもならない。

 これらの毒虫三兄弟に続くのがアリだ。患部がいつまでもしつこくヒリヒリと痛むという点ではアリが一番かも知れない。気づかないうちに体を這い上がってきて、服の隙間から刺すという点でもとにかくたちが悪い。

 そういう風に人間を刺すのは、よく地面を走り回っている黒くて大型のクロオオアリではなく、もぞもぞと動き回っている小さい方のアリだ。名前は何と言うのか知らない。ひどい時にはトラックの中にまで入り込んでいて、現場を離れて移動中にも刺されることがあるから、本当にやっかいだ。

 そういえば数年前に、南米産のヒアリという猛毒のアリが日本に上陸したといって、同業者らが戦々恐々としていた時期があったが、それほど問題にならずに済んでいるのは、政府の水際対策がしっかりしているお陰だろうと思っていた。

 ところが最近になって分かってきたのは、もちろん水際対策の効果も大きいが、例のクロオオアリがヒアリの日本での繁殖を妨げているらしいのだ。これは何とも有難いことではないだろうか。

 このことを知って以来、働き者のクロオオアリが日本の国土の守り神のように思えてきて、こういう固有種というものは大事にしなければならないものなのだなということを深く感じるようになった。