椿山荘の思い出

 神田川沿いに江戸川公園があって、その上が関口台という高台になっている。そこにも仕事の現場があって、目白坂という坂道を登っていくのだが、通り沿いには古いお寺も並んでいて、観光にでも来たような気分になる。

 その坂を上り切ったさきには、有名なホテル椿山荘があって、何だこんなところにあったのかと驚いた。椿山荘はもともと明治の元勲、山縣有朋の邸宅があったところで、庭園の設計も本人がやったらしい。

 椿山荘にはコンサル関係の仕事をしていたころに、打ち合わせや会議で何度か来たことがあって、その時はいつも目白通り沿いに正面入口の方から来ていたから、わきの坂道の方はあまり目に入らなかったのだ。

 また違った角度から椿山荘を見ることができたと喜ぶべきなのかどうかと複雑な気持ちだったが、椿山荘を仕事で使っていたころはまだ三十代だったから、あれからもう二十年近くがたっている。

 仕事の打ち合わせが済んだら、椿山荘の幽玄で美しい庭園を散策し、目白通りを渡って、向かいにある聖マリア大聖堂の入り口をくぐって、その奥に復元されているルルドの洞窟を見に行ったりしたものだった。

 椿山荘にスーツ姿で出入りしていたころの自分が、目白坂に続くわき道の方を眺めることがあったら、そこに職人姿でたたずんでいる二十年後の自分の姿が見えただろうかとふと思った。